私に付ける薬はない

誰かをクスリとさせたいブログ

すくわれる日々

私は元陸上部であり、今でも趣味でランニングを続けている。

普段は質素な私もランニングシューズだけは良いものをと考え、これまでにアシックスさん、ミズノさん、ニューバランスさん、ナイキさん…と一流ブランドにお世話になり続けてきた。

この度、今使用しているシューズがダメになったので、さて次はどれにしようかと思い倦ねていたのだが、これまでみたく競技用の本格的なシューズである必要も無いのではないかという考えが脳裏をよぎった。

今までランニングシューズを買う際は直に試し履きをしてから購入していた私も、気付けば某通販サイトにアクセスし、どこのブランドかも分からない安価なシューズに手が伸びていた。

 

数日後、自宅に商品が届き、意気揚々と開封してみた。

思っていた以上に軽量であり、手に取った感じは悪くない。

また、ストレッチ性もあるので履いた時の窮屈感も少ない。

(安い割になかなかいいじゃないか)

すぐさま走り心地を試してみたくなった私は勢いよく外へと駆け出した。

数歩走った時点ですぐさま絶望することとなる。

(あ…きついこれ…)

サイズ感がではない。足への負担そのものがである。

ソールが薄めだとは感じてはいたが、クッション性が無いというのは致命的であった。

足の裏に中敷きだけを貼り付けてペタペタ走っているような感覚。

ものの数分でふくらはぎ、足首、挙句の果てには膝までが痛み出した。

(くそ!クッション性がなければ俺はランニングもできないのかよ!)

人並み以上には走れる自負があった私は、走りながら打ちひしがれていた。

爽快感を全く感じられない時間が刻々と進むにつれ、私は次第に不快感と共に苛立ちが募り始めてきた。

(クッション性が無いとはいえども靴は靴だろうが。過去の箱根ランナーの中には裸足でアスファルトを駆け抜けた猛者もいるじゃないか。甘えてどうする馬鹿野郎!)

私は不快感を跳ね返すようにして、スピードを速めた。

しかし速度を上げたことによって、ここでまた別の違和感が生じ始めてきた。

クッション性がない、すなわち接地時の衝撃を吸収するものがないために、ひたすら脳が振動するのだ。

それに伴い、視界がブレて安定しない。

体調は悪くないのに眩暈がする、なんとも気持ちが悪い感覚。

すぐにでも脱ぎ去ってしまいたかったが、自分への戒めという意味で走り続けた苦痛の8Km。

安物買いの銭失いとはまさにこのことである。

あの時、楽して安価に購入しようと魔が差してしまった己を恥じた。

まさかランニングシューズに足元を掬われることになろうとは。

それと同時にいかにこれまで一流ブランド、ひいては“クッション性”に救われていたのかを思い知らせたのであった。

 

帰宅後、脱ぎ去った後のシューズをしばらく見つめる。

2度とこのシューズで走ることはないであろうが、買ったばかりのそれを捨てることもできない私は、“ランニングシューズ”から今後日の目を見ることのない“ベランダ用の履き物”へと降格処分を下してやった。